あなたは感情移入をしていますか?日常で感覚的に感情移入という言葉を使っていることも多いでしょう。今回は感情移入の意味や使い方、感情移入しすぎるのを改善する方法についてまとめてみました。よく間違えてしまう類語との違いも解説していきます。
感情移入とは簡単に言うとどういうこと?
感情移入とは、他人の言動や置かれている状況からその感情を自分のものであるかのように感じることをいいます。小説や映画、アニメなどの創作物の登場人物や、絵画などの芸術作品、自然などに対しても自分の感情を移し入れ、一体となって感じることも感情移入です。
感情移入の使い方・例文
感情移入はどのように使うのでしょうか?例文をいくつかご紹介します。 「映画の主人公の不遇な過去に感情移入してしまい本当に辛かった」映画の主人公の恵まれない過去に自分の感情を移して、辛い気持ちになってしまった場合です。 続いて「サッカーの試合に感情移入しすぎて勝ったときは涙を流して喜んだ」試合を見て応援しているうちに白熱した展開に引き込まれて、まるで自分もチームの一員であるかのように一喜一憂し、勝利をうれし涙している様子が浮かびますね。 いずれも感情移入を使うときは、自分の感情が伴います。また「原作よりアニメ版の方が感情移入しやすい」や、「話が大げさすぎて感情移入できなかった」など、「感情移入する」という動詞としても使うことができます。
感情移入の類語
感情移入の類語は「共感」「同情」「自己投影」などがあります。ここではそれぞれの意味を軽く説明しておきます。「共感」とは、他人の喜怒哀楽の感情を自分も一緒になって共有すること。 それに対して「同情」は、他人の不幸や苦悩といった感情を自分のことのように思いやって感じること。また「自己投影」とは、自分の中にある感情や姿、思考を意識せずに自分自身ではなく、他人に映しかえることをいいます。 感情移入とそれぞれの違いはのちほど詳しく説明していきます。
感情移入の対義語
感情移入の対義語は「無関心」であるといえます。「無関心」とは人や物事に関心を持つ気持ちがない様子のことです。関心を持たないということは、感情も持たないということ。 また感情の対義語は理性でもあるので、感情で物事を判断しないドライな性格でもあるでしょう。逆に感情移入しやすいのは「情にもろい」ということもできます。
感情移入の英語表現
感情移入を英語で表現するとどうなるのでしょうか?感情移入は英語表現で「empathy」、感情移入するだと動詞の「empathize」で言い表すことができます。他人の気持ちを理解する、つまり感情移入するといった意味です。 どちらかというと自分も同じような経験をしたことがあって、その気持ちが分かるというニュアンスで使われます。「empathy」は共感するという意味でも使われることがあるのですが、共感の英語表現は「sympathy」。 同情や思いやりという意味なので、相手の辛い気持ちや悲しみに寄り添う場面で使うことができます。日本語でも「シンパシー」という言葉は聞きなじみがありますね。
感情移入と共感の違い
よく感情移入と同じような使い方をされるのが「共感」です。「共感」とは他人の感情を自分も共有すること。友人が悲しい思いをしていれば自分も悲しい気持ちになり、嬉しいことがあれば一緒になって喜ぶ。日常的に自然と「共感」していることは多いのではないでしょうか? 感情移入と「共感」は似たような場面で使われるイメージがありますが、明確な違いがいくつか存在します。そのひとつが、感情が発生する対象についての違いです。感情移入と「共感」はその対象がなんであるかによって使われ方が変わってきます。 簡単に言うと感情移入は人だけでなく物に対してもすることができますが、「共感」するのは「人」に対してのみです。つまり「共感」とは人間同士で、喜怒哀楽すべての感情を共有するということなのです。もうひとつ、感情移入と「共感」の違いで大事なポイントがあります。
それは感情を持つ対象についての感じ方の立場です。感情移入は、ある人や物事、創作物に対して自分の感情を移し入れますが、その感情はあくまで自分本位の感じ方をしたものです。例えば壊れたおもちゃを目の前にした子どもがいるとします。 それを「悲しいだろうな」と思うのが感情移入ですね。ここで注意したいのは、その子どもが実際どんな気持ちかは関係ないこと。感情移入は相手の立場に立って相手の気持ちを推測しているわけではなく、「自分だったら」と自分が体験したことを想像して感じたことなのです。
本当はその子どもは新しいおもちゃが欲しくてわざとおもちゃを壊したのかもしれません。当然ながら人はみんな感じ方もそれぞれ違うので、同じ事柄が対象でも感じることは様々です。それに対して「共感」は、相手の気持ちを心から理解して同じ感情になること。 つまり相手の感情が主体で、その感情を自分のもののように感じて、同じ感情を持つことです。相手が悲しんでいれば、その悲しみを自分のもののように思って自分も悲しむ。嬉しいときも同様です。相手の感情があってこそ「共感」は生まれるのです。 「共感」は相手の持った感情を通して自分と相手が繋がるので、人間関係を深めていく大切な要素にもなります。自分に「共感」してくれる相手がいるとなんだか嬉しくなりませんか?悪いこともいいことも、「共感」して泣いて笑えるのはとてもすてきな関係ですね。
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感情移入と同情の違い
次に感情移入と「同情」との違いです。さきほど少し触れたように「同情」とは他人の、特に負の感情を自分のことのように思いやり感じることでした。別の言い方をすると、哀れみや思いやりともいえる感情です。実際に「同情」したときのことを思い出してみてください。 悲惨なニュースを見て「あんなことになるなんて…かわいそうに」事故に合った友人に「大変だったね、辛かったよね」と、相手の立場を自分に置き換えてその苦しみや辛さの感情を発言しますよね。「同情」は他人の不幸や苦悩といった負の感情のみを対象としています。
感情移入は人だけでなく物を対象ともしますが、そのことを除けば「同情」と同じような感覚で使われる気もします。感情移入と「同情」は対象について抱く感情のベースが自分ということが共通点でしょう。これは相手の感情をベースとしていた「共感」との違いでもあります。 「共感」の場合は自分の立場や感情は関係ないものでした。「同情」は相手の立場に自分が立った場合に、「自分だったら」どうかと考えて感情を捉えます。相手の立場あってのことではありますが、感情自体は自分の経験や自分自身の判断から基づいたものです。 かわいそうという感情は自分の判断で感じたことなので、当の本人にはその感情はありません。自分で自分のことをかわいそうだと思う人は、一部の人を除いては一般的ではないでしょう。つまり自分一人で感じることができるのも、感情移入と「同情」の共通点でもあります。
これも「共感」との違いについて考えると答えが明白になります。「共感」は相手の立場、そして相手の感情がなければ成り立たないのに対して、感情移入と「同情」は相手の立場をベースにしてはいますが、自分がどうゆう感情を持っても相手には関係なく成り立ちます。 感情移入と「同情」は、自分一人でも成立する一方通行な感情であるといえます。また「同情」は思いやりともいえますが、そもそも哀れみの感情。他人を哀れむ時点で「同情」する相手を自分と同じ目線ではなく、少し上から見ているのも特徴的だといえます。 「同情」は感情移入との共通点も多くありますが、感情移入より対象も感情も限定されているのが大きな違いとなっているのです。
感情移入と自己投影の違い
では感情移入と「自己投影」との違いはなんでしょうか?まずは「自己投影」の意味をもう少し詳しくみていきましょう。「自己投影」とは自分ではない他の誰かに、自分自身の感情や姿、思考を無意識に投影することでした。 これは映画やアニメなど創作物の登場人物だけでなく、実際にいる有名人やアイドルもその対象になります。つまり「自己投影」の対象は人であり、簡単に言うと他人に自分を重ねるということです。 「自己投影」は、自分では本当は認めたくない自分の中にある感情や性格などネガティブな要素を他人に投影します。また「自己投影」には自分の中にある受け入れがたい要素を、自分ではなく他人が持っていると認識することで自分自身を守っている側面もあります。
本当は自分では認めたくない負の部分なので、投影していることを本人が自覚していない場合が多いのも「自己投影」の特徴です。よくあるのが他人の嫌なところが自分の欠点でもあったというケースです。 本当は自分が相手のことを嫌いなのに「あの人は私のことを嫌っている」と置き換えてしまうのも「自己投影」になります。ここまでみてくると「自己投影」は悪いことだけを対象としているようですが、もちろん自分の理想やいいところに対しても「自己投影」は行われます。 本当になりたい自分を他人に重ねて好意を持ったり、応援したりすることもあるでしょう。また「自己投影」は自分と何らかの共通点や類似性を感じる人に対して行われることが多いといえます。これは自分と関連性のない対象にも行われる感情移入との違いでもあります。
よく感情移入と「自己投影」は似ていると捉えられますが、一番の違いは感情を感じるときの立場です。感情移入はいままでみてきたように実際に感じているのは自分の感情ではありますが、他人の立場に置かれた場合を基準にしていますよね。 「自己投影」は他人に自分を重ねているので、他人の立場は自分の立場であると認識した上で自分の感情を感じています。つまり他人と自分の立場を同一視しているのが「自己投影」なのです。「自己投影」しすぎると自分と他人を区別して考えられないこともあります。 「自己投影」する人は感情移入もしやすい傾向があるといえるでしょう。しかし「自己投影」をしやすい人が感情移入をするときは、自分主体というよりは他人とリンクした自分の感情という客観的にみると少し複雑なものに捉えられるかもしれません。
感情移入しやすい人の特徴
自分でも知らず知らずのうちにしている感情移入。どのような人が感情移入をしやすいのでしょうか?感情移入しやすい人の特徴をみていきましょう。
特徴1:感受性が豊かで繊細
感情移入しやすい人の特徴として、感受性が豊かであることがあげられます。感受性が豊かだと同じ事柄でも他の人より感じとる力が大きいので、そこから強い刺激と影響を受けます。 また感受性の豊かな人は繊細な感覚の持ち主でもあるので、特にネガティブな感情には必要以上に反応してしまうでしょう。
特徴2:感情的で情に厚い
感情移入しやすい人は感情的である傾向が強いともいえます。感情移入するとき、もらい泣きしたり笑ったり、喜怒哀楽が激しいのではないでしょうか?物事を考える基準も感情になってしまうので、冷静に判断するのが苦手な人も多いといえます。 また温かい心を持っているので情に厚いのも特徴のひとつです。自分が感情的な人は他人の喜怒哀楽も感じやすい傾向もあります。
特徴3:感覚が研ぎ澄まされていて敏感
感情移入しやすい人は感性や感情だけでなく、感覚についても敏感です。他の人よりも五感から受け取った情報をフルに使って物事を判断している人が多いので、少し人と違ったものの捉え方をする傾向もあります。 他人のちょっとした変化に気付いたり、普段から感覚的に周りを意識している人が多いようです。
感情移入する人の長所と短所
感情移入することにも、いい面と悪い面が存在します。ここでは感情移入する人の長所と短所をそれぞれチェックしていきましょう。
感情移入する人の長所
まずは感情移入する人の長所からみていきます。感情移入にはどのようないいところがあるのでしょうか?
長所1:優しく思いやりがある
感情移入する人は優しく思いやりのある性格をしています。相手の気持ちを自分なりにいつも考えているので、自然と周りにもその思いやりは伝わることでしょう。 優しさを持ち合わせているからこそ、相手の立場に立って感じることもできるのです。これは感情移入する人のすばらしい長所であるといえますね。
長所2:些細なことに気付き人から好かれる
さきほどあげた長所のように、感情移入する人は優しく思いやりがあります。それだけでなく些細な変化にも気が付きやすいので、いつも周りに気を配ることもできます。そのような性格の人は、人から嫌われることは少ないでしょう。 相手を思いやれる気持ちを持っていることは人間関係において非常に重要です。他人のことを考えられる性格の人は、どんな場面でも欠かせない存在なのです。
長所3:感性が鋭く芸術的
感情移入する人は感性が鋭いので、芸術や創作活動に向いているともいえます。芸術の分野ではなによりも感性が大事。人と違った感じ方ができればできるほど、生み出すものも個性的で芸術性が高くなります。 創作活動においても、物事を自分なりに感じ取れる感覚もとても大切になっていきます。持ち前の豊かな想像力も十分活かすことができるでしょう。
感情移入する人の短所
一見すると感情移入することはいいことの方が多い印象を受けます。ここでは感情移入の短所を解説していきます。感情移入しすぎるとよくないこともいくつかあるようです。
短所1:他人の感情に振り回されやすい
感情移入する人の一番の短所は、他人に振り回されやすいところでしょう。これは感情移入する人ならではの短所ともいえます。いつも他人の気持ちを想像してしまうので、「いま怒ってるんじゃないかな」「こうしたら悲しむだろうな」といつも他人の言動を気にしています。 自分で想像して判断した感情ではあるのですが、自分の行動や発言も無意識に他人に合わせるようになってしまいます。相手には振り回すつもりがなくても、結果的に自分だけ大変な思いをしてしまうこともあるようです。
短所2:ストレスを感じやすく疲れてしまう
感情移入する人は基本的に感受性が豊かで繊細な性質を持っているので、ストレスも感じやすくなってしまいます。物事に対して敏感に反応してしまい、些細なことが気になってしまうのです。周りのことを気にしすぎて疲れてしまうことも少なくありません。 さきほどの短所でみたように無意識に他人に合わせてしまって、自分で自分の行動を制限してしまいます。自分の意見を我慢したり自分の思い通りに動けないことにもストレスを感じるでしょう。 いつも感情的だと自分の感情の起伏が原因で疲れてしまうこともあるようです。人より多く喜怒哀楽を感じ取ってしまう性質もあるので、その分疲れてしまうのは当然の結果であるといえるかもしれません。
短所3:思い込んで決めつけてしまうことが多い
勝手に自分で思い込んで、決めつけてしまうのも感情移入する人の短所だといえます。感情移入する人は「自分が相手の立場だったら」といつも想像して物事を捉えるのが日常的になっていることも多く、本当はそうでなくても「きっとこうだ!」と決めつけてしまいがちです。 感情移入しすぎると思い込みも激しくなって、例え好意であっても相手にとって押し付けがましくなってしまう場合もあります。無駄な先入観が働いて自分自身の視野も狭くしてしまう可能性もあるので注意が必要です。
感情移入しすぎてしまう人におすすめの改善方法
あまりにも感情移入をしすぎてしまうと困ることもありそうですね。そんな人のために、感情移入をしすぎないようおすすめの改善方法をご紹介していきます。感情移入しすぎてしまう傾向がある人はぜひ参考にしてみてください。
改善方法1:自分の感情と他人の感情にしっかり線引きする
短所にもあったように、感情移入しすぎると他人の感情に振り回されたりしてストレスを感じることも多く、人生が生きづらいものになってしまいます。感情移入は実際に自分が経験したことではなく、想像したものだということを常に頭の片隅に置いておきましょう。 そもそも他人のことはどんなに親しくてもすべて理解はできないものです。自分と他人とをしっかり区別して、線引きをすることが大事です。
改善方法2:負の感情を生み出す原因を避ける
哀しみや苦しさといった負の感情を感じる対象を避けることも改善方法になります。嬉しさや楽しさのようなポジティブな気持ちを感情移入するのは自分を苦しめることはありませんが、負の感情を必要以上に感じると自分ばかりが辛い気持ちから抜け出せなくなってしまいます。 特に感情移入しやすい人は負の感情を引きずってしまう性質もあるので、初めからその原因に近づかないことも大切です。自分の気持ちが不安定なときは、いつもネガティブな発言ばかりする人や見ていて辛くなるような作品とは自分から距離を置いてみましょう。
改善方法3:冷静になって感情をリセットする時間を作る
感情移入しすぎるとすべてのことにおいて感情が先行してしまって、気が休まることが少ない状態に陥ってしまうこともあります。自分の心の安定を保つためにも一度気持ちをクールダウンさせて、感情をリセットする時間を意識的に作ることも改善方法のひとつです。 なにもしないでボーっとするのもいいですが、なにも考えずに打ち込めることをするのもいいでしょう。感情移入する人は感性も鋭いのでその感性活かして自分の好きな音楽を聴いたり、心が癒される創作品や芸術作品に触れるとストレスの発散にも繋がるのでおすすめです。
自分なりの感じ方を大切に
なんとなく感覚的にしていた感情移入、類語と比べることでその姿を解説してきました。何気なくしてきた感情移入にはいいところはもちろん、自分を苦しめる悪い面もあります。どんな人にも長所と短所はあり、感情移入する人にとってもそれは同じです。 感情的になりすぎず負の感情を引きずらなければ、感情移入とも上手に付き合うことができます。感情移入で感じたことは、他の誰でもないあなただけの感情です。人とは違う、自分なりの感じ方を大切にしていきたいものですね。