ダニング=クルーガー効果とは心理学の認知バイアスのひとつであり「自分が持っている能力を過大評価すること」をいいます。できない人ほど自信過剰になってしまうダニング=クルーガー効果が起こる理由やダニング=クルーガー効果にならない改善策を紹介します。
自分を過大評価していませんか?
あなたは自分を過大評価していませんか?もし、自分のことを過大評価をしているなら、あなたはダニング=クルーガー効果に陥っているかもしれません。 自分の能力が低いのに自分を過大評価をしていることを「ダニング=クルーガー効果」といいます。実は能力が高い人ほど、自分の能力を過小評価しているといわれています。今回はダニング=クルーガー効果について考えていきましょう。
ダニング=クルーガー効果とは?
ダニング=クルーガー効果とは「能力の低い人は、自分が持っている能力を過大評価すること」をいいます。ダニング=クルーガーとはアメリカユーネル大学の心理学者デイヴィット・ダニングとジャスティン・クルーガー、両方の名前を合わせたことに由来しています。 ダニング=クルーガー効果値観や生活習慣などから「こうだろう」と物事を決めつけ、勘違いをしてしまうことをいいます。 ダニング=クルーガー効果の場合、自分の勉強不足により、自分の能力を客観的にみること(メタ認知)ができません。そのため、自分の周りからの評価が「能力が低い人」と思われていても、本人は「自分には能力があり、自分はできる人」だと思い込んでいます。
ダニング=クルーガー効果の実験
ダニング=クルーガー効果の実験は人が無意識や思い込みが判断や能力にどのような影響をあたえているのか、わかりやすい実験例がたくさんあります。そのなかでも興味深い4つの実験について紹介します。
実験①専門知識に関する質問
この実験は対象者に「政治」や「物理」などいろいろな分野で使われている専門用語の意味について質問しました。そのうち9個の単語には「実在しない用語」も含まれています。実験の結果、「実在しない用語」について約9割の人が1つ以上知っていると答えました。
実験②ユーモアセンスに関する質問実験
65名の大学生を対象にして、ジョーク30本を読んでもらい、ジョークの面白さについて評価してもらうという質問実験を行いました。しかし、そのジョークに付けた点数で学生自身が面白さについて本当に理解しているのかわかる細工がされています。 その結果、成績が低い人2割の人は、自分は成績が良い4割に入っていると思い込んでいました。一方、ジョークがわかる成績優秀な2割の人は「自分は上位3割くらいには食い込んでいる」と成績が低い人に比べて1割程度過小評価をしました。
実験③テストの結果に関する質問実験
自分のテストの点数が非常に低いのにも関わらず、自分は「トップ10%に入っている」や自分は「半分より上の成績のはずだ」と思い込んでいる傾向が強いことがわかりました。
実験④車の運転に関する質問実験
アメリカの調査で約83%の車の運転者が「自分は平均より車の運転が上手い」と感じているという調査結果がでました。余談ですが、日本では運転技術について自信があるドライバーはわずか約25%になっています。
ダニング=クルーガー効果の具体例
ダニング=クルーガー効果により、意思決定にゆがみがでることがわかりました。ダニング=クルーガー効果はときに歴史や人生、日常生活を変えるほどの影響があることがあります。 ダニング=クルーガー効果が人の判断や思い込みにどのように影響をあたえているのか、具体例を身近なことや歴史から考えてみましょう。
戦艦大和の特攻を命じ、多くの人命が失われた
敗戦前の旧日本軍の意思決定がダニング=クルーガー効果にさらされていたといえます。 沖縄戦のとき、この時唯一の海軍の最大の戦力であり、世界最強の戦艦だった、戦艦大和の沖縄に向けて特攻を決定したのは「世界最強の戦艦を無傷で敵に渡したくない」という意見で決定したようなものだといわれています。
周りの人をイエスマンで固める
会社などの組織でイエスマンで自分の周りを固めるとダニング=クルーガー効果に陥りやすいといわれています。 例として、社長の周りの経営陣をイエスマンで固めてしまうと、間違った決定をしてしまうことが多く、結果として失敗が連続してしまいます。場合によってはこれが原因で会社が倒産することもあります。 イエスマンは自分の保身ばかり気にして物事を決定します。つまり、そのときの社内政治によって物事が決定しやすく、会社中心の内向きな考えになりがちです。外に目を向けて、お客さんがどのようなことを望んでいるのかを考える視点が欠けてしまうのです。
リーグ・オブ・レジェンド(lol)で負けたとき、チームメイトの所為にしてしまう
リーグ・オブ・レジェンド(lol)というネット対戦するゲームでダニング=クルーガー効果によって、成績が頭打ちになる時期があるといわれています。リーグ・オブ・レジェンドは3対3か5対5でチームを組んで対戦する世界的に人気のリアルストラテジーゲームです。 リーグ・オブ・レジェンド(lol)はチーム戦で戦うこと、何が敗因だったのかが見えづらいゲームであることから「負けたのはチームメイトの所為だ」と感じてしまうようです。 リーグ・オブ・レジェンドは戦略性が高く求められるため「なぜ、負けたのか」という分析することが勝率を高める近道といわれています。自分の実力を認めて、今の自分の実力で最善な戦法を取ることや練習を積み重ねるのが大切といわれています。
ダニング=クルーガー効果が起きる理由は?
ダニング=クルーガー効果が起きる大きな理由として「しったかぶり」して、自分がそのことについて、知識があると思い込んでいるのが理由だといわれています。これは哲学でいうと「無知の知」を知っていない人がダニング=クルーガー効果が起きてしまうともいえます。 「無知の知」とは古代ギリシャ人の哲学者ソクラテスが「自分が知識について、なにも知らないことを知っている」と説きました。他人の無知を指摘するのは簡単なことですが、自分はすべてのことをわかっていないと気づける人は少ないとソクラテスは説いています。 ダニング=クルーガー効果が起きる人は自分のレベルを正しく理解することができず、他人を評価することもできないため「自分には能力がある」と思い込んでしまうといわれています。
ダニング=クルーガー効果のメリット・デメリット
ダニング=クルーガー効果によって、人が過度の自信を持つことによりデメリットがある反面、実はメリットもあるといわれています。ダニング=クルーガー効果のメリット・デメリットはどのようなものなのでしょうか。
メリット
ダニング=クルーガー効果のメリットは物事を粘り強く行うことができるといわれています。「私はできる!」という思い込みや勘違いから難しいことに対して、果敢に取り組むことができるといわれています。 これは学生を対象に数学が得意と思っている人と、数学が苦手が思っている人の成績を比べると、数学が苦手と思っている人たちの方が数学が得意と感じている人に比べて、約20%の人が数学の成績が平均より上でした。 一方、数学が得意と思っている約30%の人たちは数学の成績が平均より下でした。しかし、「数学が得意」だと感じてる人たちは数学が苦手と感じている人たちよりも「粘り強く問題を解く」ことができました。問題が複雑な現代では「やりぬく力」は重要だと言われています。
デメリット
ダニング=クルーガー効果の一番のデメリットは「自分を過大評価してしまう」ことです。自分を過大評価するため、自分はそのことについて「なんでも知っている」と思い込みがあるので間違った行動や判断をしやすくなります。 しかも、自分が無意識のうちに判断ミスをしてしまいます。これはダニング=クルーガー効果以外のどのバイアスにもいえることです。自分が無意識に自分が取った行動や判断は正しいと思い込んでしまうのです。
ダニング=クルーガー効果に陥らないようにするためには?
ダニング=クルーガー効果のメリットから「自信を持つことで物事を粘り強く行うことができる」といういい面があることもわかりました。一方で、ダニング=クルーガー効果によって、思い込みが過度な自信につながるという悪い面もわりました。 このダニング=クルーガー効果のメリット・デメリットを生かすには自分の自信を持つタイミングや自信過剰にならないバランス力が必要です。では、どのようにすればダニング=クルーガー効果に陥らないようになるのでしょうか。 ダニング=クルーガー効果に陥らない方法4つを紹介します。
問題の本質を客観視する
問題の本質を客観視することで、人は経験など自分が信じていることの思い込みから抜け出すことができます。人は問題の本質を客観視することができなれば、自分の経験で上手くいったことをすべての経験や今までの常識やルールに当てはめようとします。 これは「過度の一般化バイアス」ともいわれています。「過度の一般化バイアス」になってしまう根柢の原因として「自分はできる」と思い込むダニング=クルーガー効果が潜んでいます。 人が物事を客観視するコツは「なぜ、それをして成功したのか」「なぜそのルールがあるのか」という問題の根本から考え、問題を解決するには本当にこの方法で成功するのか、そのルールが必要なのかという視点を持つことが大切です。
常に学ぶことを意識する
ダニング=クルーガー効果にならないためには、自分は無知でだから「常に学ぶことを意識」しなければならないと考えることが大切です。知ったかぶりをせず、他人の話しっかりと聞くことにより、新たな情報を得ることができます。 また、自分には知識がないことを常に意識をしていれば、自分があまり知識がない問題に直面しても、問題解決に向けていろんな情報を集めて、その中から問題を解決しようと心がける行動をすることができ、ダニング=クルーガー効果に陥らない予防になります。
先延ばしをしない
やなくちゃならないことを先延ばしにするのもダニング=クルーガー効果が影響しているといわれています。人は「自分はできる」という自信から、やらなければならないことを先延ばしにし、なまけてしまいます。 そうならないためにも、時間にメリハリをつけて計画的に物事を進めることをおすすめします。例えば「この1時間があったら、この仕事を終わらせることができるな」と考え、行動に移すといいでしょう。
今の成功に慢心しない
なにかで成功をおさめれても、それに「慢心」しないことも大切です。人は何かの成功を収めると「慢心」してしまいます。これは過去の自分の成功体験に自信を持ちすぎて、向上心が薄れてしまうからです。 成功している自分に満足せず「成功の先」を考えることで、自分の成功体験からくるダニング=クルーガー効果に陥らないようにしましょう。例えば、仕事で自分が担当している商品の売上が大きく伸びたとき、売上が伸びている最中に「より売上を伸ばすにはどうすればいいだろう」と考えます。 そうすると自分が担当する商品の売上が鈍ったとき、すぐに有効な対策を打つことができ、さらに大きな成功を収めることができるでしょう。人は「成功の先」を常に考えることでダニング=クルーガー効果からくる、頭打ちの状況を抜けることができます。
ダニング=クルーガー効果に関連する心理用語
「インポスター症候群」というダニング=クルーガー効果とは逆の状態に陥る心理状態があります。インポスター症候群とは社会的に成功を収めたと思われる人が「自分では成功していない」と過度に過小評価してしまう状態です。 インポスター症候群は自分の成功は単なる「偶然だった」や「周りが助けてもらってばかりで、自分は何もしていない」と思ってしまいます。自分の成功やキャリアはただのハリボテにすぎず、自分がまるで詐欺師(インポスター)のように感じてしまいます。 有名な例として、ハリーポッターでハーマイオニー役で成功したエマ・ワトソンが一時期インポスター症候群にかかっていたことをカミングアウトしていました。
自信は適度に持つのがちょうどいい
自分に自信を持つことは悪いことではありません。むしろ自分に自信を持つことで自己肯定感が高くなり、精神的に安定するなど、自分に自信を持つことはメリットがたくさんあります。 しかし、今回紹介したダニング=クルーガー効果のように自分に自信を持ちすぎたり、自分が無知であるということを受けて入れないと、人は誤った判断や行動をしがちになることがわかりました。このことから、適度な自信を持つには自分を客観視するテクニックが必要です。 自分を客観視して、ダニング=クルーガー効果に陥らないように気を付けていきましょう。