無意識にしている行動が、偏見かもしれないと考えたことはありますか?それはバイアスと言います。人は色々な事を学んで常識というものが生まれますよね。しかし、常識は時として様々なバイアスを生み出しています。今回はビジネスで起きるバイアスについてご紹介します。
ビジネスで「バイアス」という言葉を使いますか?
仕事でミスをした時に上司から「そうなると思ったよ」と、自分がミスすることを前もって知っていたかの様に言われたことありませんか?また、お客さんが来た時には、女性社員がお茶を淹れることが当然の様になっていたりしますよね。 これらのことは全く関係のないことの様に思えますが、実は全て「バイアス」という心理が働いていることから起きる、偏りのことなんです。
この「バイアス」ですが、日常生活にも深く根付いている心理現象で、有名なものでは正常性バイアスというものがあります。聞いたことがある方は多いと思いますが、ビジネスで使うと「バイアス」が本来持つ意味とは違ってきます。 今回はビジネス上で良く見かける様々な種類の「バイアス」についてご紹介する前に、まずは「バイアス」の一般的な使われ方について説明していきます。
「バイアス」の意味とは?
バイアスという言葉は、英語のbiasをそのまま日本語にした単語です。本来の意味では「傾き」や「斜め」と言った訳され方をして、「布目に対して斜めに〜」という使われ方をします。 しかし、日本では上記の様な使われ方をすることは少なく、バイアスとは一般的に、偏りや偏見という意味で使われます。「バイアスがかかっている」と言った使われ方が多く、偏見や先入観による思考や行動になっている事を表します。
日常的によくあるバイアスでいうと「スーパーで買う野菜よりも、八百屋さんで買う野菜の方が新鮮だ」と言ったものがあります。 どちらも小売店であるのは変わりないですが、専門で取り扱う八百屋さんの方が鮮度が良いものを先に仕入れているはず、という思い込みから先入観が生じているのです。
更に、八百屋さんが「うちは新鮮な野菜を仕入れていますよ」と言っていたから間違いない、と思っている人がいたとします。その人は、スーパーは新鮮ではないと偏見を自ら生み出しいるのです。自分の考えが正しいと思いこむバイアスにかかっていることになります。 バイアスの偏見や偏りと言った意味は、本来の意味合いとは全く違った様に感じますが、「真っ直ぐに対してのズレ」と言った認識をして頂ければ分かりやすいかと思います。
また、少し変わった例ですが、バイアスとは医療では、治療や治験などの時に起こる、偏りの事を表します。有名なものではサンクコストバイアスというものがあります。 今までかけてきたコスト(時間やお金など)を無駄にしたくない気持ちから、そのまま続けようと考えてしまうバイアスです。
具体的な例を挙げると、患者さんがこれまで続けていた治療法から新しい治療法に切り替える時に「今までずっとこの治療法を続けていたのだから、このまま続けたい」というものです。 他にも医療では沢山のバイアスがありますが、その原因の多くは医師と患者さんの情報共有が上手くいっていないことから、患者さんの不安が生まれることに起因しています。
ビジネスでよく使われる「バイアス」の複合語と意味
一般的なバイアスについての説明をいたしましたが、自分に当てはまって「あるある」となったのではないでしょうか。バイアスという聞き慣れない言葉も身近にあることがご理解いただけたかと思います。 さて、ここからが本題となります。ビジネスでよく使われる「バイアス」にはどんなものがあるのでしょうか。代表的なバイアスとその意味をご紹介していきます。また、具体的なバイアスという言葉の使い方として例文を使って解説していきます。
認知バイアス
意味
認知バイアスとは元々、心理学の用語です。今回ご紹介する様々な種類のバイアスは、全てこの「認知バイアス」に含まれています。 認知バイアスとは一言でいうと、これまで生きてきた中で培ってきた常識や先入観といった固定観念に縛られて、正しい判断が出来ないことを指します。 人が何か判断をしたり、何かを決めるときには、できる限り公平で合理的に考えなければいけません。しかし、認知バイアスにかかっていると、状況によって正しく判断できなくなってしまうのです。
使い方(例文)
・友達と旅行をする計画を立てていて、私は京都に行きたいけれはど、友達は「夏の旅行といったら沖縄」と認知バイアスにかかっていて意見を曲げない。 ・この街にゴミが1つも落ちていないのは環境保護活動の影響もあるが、住民全員が「ゴミは分別してゴミ箱へ」という認知バイアスがあるお陰だ。
確証バイアス
意味
確証バイアスとは、自分の考えや信念を調べたり検証する時に、自分にとって都合の良い情報だけを集めてしまうことです。更に、自分にとって都合の悪い情報は無視したり、集めようとしない傾向にあることです。 確証バイアスが深く根付いて支配されてしまうと、自分が正しいと思い込んでしまいます。その結果、自分とは違う考えや行動を持つ人を批判する様にまでなってしまうのです。 しかし、確証バイアスにはメリットもあります。自分の考えに確証を持っているので、行動に迷いがなく結果に繋がりやすくなることです。少し前に話題になった引き寄せの法則も、確証バイアスが見事に功を奏している例でしょう。
使い方(例文)
・営業部の中で佐藤さんが常に上位の成績を維持できているのは、「自分は営業の才能がある」と確証バイアスが働いているからだろう。 ・クレームの防止策を考えて実施しようとしても、部長は自分のやり方が正しいと言って採用してもらえない。きっと、確証バイアスにかかっていてるのだ。
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後知恵バイアス
意味
後知恵バイアスとは、何か結果が出てから、まるでそうなると前から知っていたかのように思うことです。誰かが失敗したときに「そうなると思ったよ」と発言している人は後知恵バイアスにかかっていると言えるでしょう。 「そうなると思った」と言われても、気分は良くないだけで特に悪いことは無いように思いますよね。しかし、後知恵バイアスにかかっている人は結果しか見ずに過程を軽視してしまうのです。 後知恵バイアスに深くかかってしまうと、目の前に起きた結果のみで判断してしまうため、なぜそうなったのかという本質を大きく見誤ってしまう可能性があるのです。
使い方(例文)
・電車が遅延して遅刻してしまったため、理由を上司に説明したら「だと思ったよ、そうなることを想定してもっと早く家をでなくちゃ」と説教をされた。体調不良の可能性を無視したのは、後知恵バイアスにかかっているせいだ。 ・新入社員が書類を紛失したので同僚に相談したら「やっぱりね。あの新人は見るからに注意力が散漫な感じがしていたよ」と批判した。書類を紛失する原因は会社の管理方法にも問題があるのに、後知恵バイアスにかかっているせいで正しく新人の評価ができなくなっている。
正常性バイアス
意味
正常性バイアスとは、「自分だけは大丈夫」と思い込んでしまう傾向のことです。自分にとって都合の悪い情報を無視したり、軽視してしまうことで大きな問題に発展してしまう危険性があります。 大規模な震度の地震や、大きな津波の発生で逃げ遅れてしまった、というニュースを聞くと、「海辺に住んでいて警報も出ているのに、なんですぐ逃げないんだろう」と思いますよね。
でも、被災者本人は「自分だけは大丈夫」と思い込んで、ニュースの緊急速報や警報があっても自分の都合の良い思い込みのせいで、無視してしまうのです。 どうして危機意識がなくなってしまうのかというと、自然災害に直面して大きなストレスがあると、自分自身に「自分は大丈夫」と暗示をかけて、ストレスを軽減しようとする自己防衛の心理が働いてしまうからです。
使い方(例文)
・納期が来週に迫っているのに、進行度が遅いためチームリーダーに問いただすと「大丈夫、大丈夫。きっと間に合うよ」とあまり危機感のない返答をされた。正常性バイアスにかかっているせいで、チームの状況を正しく認識できていない。 ・リコールにもなりかねない問題を見つけた。上長に報告すると「まぁ、なんとかなるだろう」と言って、取引先への連絡もしなかった。正常性バイアスにかかっていて、後に大問題になることを想定できていない。
ジェンダーバイアス
意味
ジェンダーとは一般的に社会的文化的性差と訳されます。簡単にいうと男女の違いによる社会的な扱われ方のことです。つまり、ジェンダーのバイアスですので、社会的な性差での偏見や先入観といった意味となります。 古い会社ほどジェンダーバイアスにかかっている年配の人がいるため、男女で仕事内容の違いがあることが多いです。また、ジェンダーバイアスが行き過ぎると、男尊女卑の思想に陥ってしまう可能性も高いです。
ジェンダーバイアスの中でも良く聞くのは、「男性は働いてお金を稼いで、女性は専業主婦として家事と育児をする」です。「おじいさんは山へ芝刈りへ、おばあさんは川へ洗濯へ」と同じで、昔からの習慣から生まれている先入観です。 最近では「主夫」や「イクメン」といった言葉が少しずつ出てきて、男性の家庭参加が増えていったりはしていますが、そもそも「男性が家庭に入ること」を意味する言葉が存在している時点でジェンダーバイアスの傾向があるとも言えます。
男女差別と聞いて悪いイメージを持たれると思いますが、実はジェンダーバイアスにも良いところはあります。レディーファーストの概念がある男性からは、優しくされたり、大切に扱われることです。 男女の身体の作りや心理構造の違いで、向き不向きがあるのも事実です。しかし、力の強い女性もいれば、心の繊細な男性もいるように、男女の違いも傾向に過ぎません。男女の傾向を極大解釈してしまっていることが原因の一部です。
使い方(例文)
・取引先の会社に行くと、受付の女性が会議室へ案内してくれた。一緒に来ていた同僚は「受付嬢の対応が素晴らしいね。やっぱり受付は女性が向いているね」と褒めていたため、ジェンダーバイアスにかかっていることを注意した。 ・大きなプロジェクトを任された時に、先方の担当者が不安な顔をしていた。後日その理由を営業の人に聞いてみたら「途中で産休とかになって、納期が遅れるのを不安に思っているらしい」とのことだった。信頼されてないない理由がジェンダーバイアスによるものだったので、悲しい気持ちになった。
「バイアス」を使う時の注意
バイアスと一言でいっても、沢山の種類があることが分かったと思います。そしてビジネス上で問題となる認知バイアスは、その人の常識から生まれているので、正すことの難しいこともご理解いただけたことでしょう。 バイアスのかかっている人に「君は認知バイアスにかかっていて、それは間違っている」と言っても、真っ直ぐには受け止めてもらえません。先入観や固定観念を否定することは、これまでの生き方を否定されたのと同じことだからです。
誰だって自分の生き方を否定されるのは良い気分ではないですよね。バイアスにかかっている状況というのは、呼吸しているのと同じくらい自然なことです。 誰かのバイアスを正したいと考えているのであれば、根気強く長い時間かけて、自分自身で過ちに気付かせるような立ち回りが必要となるでしょう。
「バイアス」は排除するものではない
身近に起きているバイアスほど厄介なものはないですよね。しかも問題が大きくなれば大きくなるほど改善が難しくなるという悪循環になる始末です。抗おうとすれば自分が火傷を負うかもしれません。 ですが、バイアスは常識の積み重ねですので、それを上手く使えば武器にもなります。相手がどんなバイアスにかかっているのかが分かれば、交渉するときには有利な立場になることだって可能です。
「バイアスは排除するのでなく、利用するもの」と考えると、厄介なイメージから心強い味方のようにも思えてきませんか?利用する、というと何か企んでいるように感じますが、使えるものは使うのがビジネスといえますよね。 また、誰かのバイアスを正すのは難しいかもしれませんが、せめて自分自身にかかっているバイアスを正していこうとするのも良いです。
自分だけはバイアスにかかっていないと思っている人がいたら、「自分だけはバイアスにかかっていない」バイアスにかかっている可能性がとても大きいです。 自分を見つめ直す機会と考えて、まずは自分の常識を疑ってみましょう。無意識にとっている行動が固定観念の鍵です。特に何かを決める時、誰かと話し合うときには客観的に物事を考えるようにして、広い視野で判断するように頑張ってみてください。