集団になると人は怠けることがあらゆる実験によって分かっています。集団になると怠けるという現象をリンゲルマン効果といいます。この記事ではリンゲルマン効果がなぜ発生してしまうのかという原因に触れつつ、発生させないための対処法を紹介させていただきますね。
集団に入ると人は怠ける?
何か大規模なプロジェクトを進めようと思うと1人の力では限界があります。1人で1つの仕事に取り組むよりも、集団で1つの仕事に取り組んだ方が大きな成果を出すことができますよね。だから人は集団で物事に取り組みます。 実は集団で活動していると、人は意識的にも無意識的に怠けることが分かっているんです。人が集団で怠けることを専門用語でリンゲルマン効果と呼びます。 以下でもう少し詳しくリンゲルマン効果について見ていきましょう。
リンゲルマン効果とは?
リンゲルマン効果とは、集団になると1人あたりの貢献度が低下してしまうという現象のことをいいます。別名「社会的手抜き」と呼ばれることもありますね。 例えば文化祭の準備などであれば、必ず何の手伝いもせずに怠ける人がいたと思います。まさにリンゲルマン効果の現れですね。 リンゲルマン効果の厄介な点は、本人の意思とは関係なく無意識的に効果が出てしまう点です。いくら本人にやる気があって、当人は一生懸命がんばっているつもりでも、集団になったとたんに個人のパフォーマンスが落ちてしまう事が分かっています。 もう少しリンゲルマン効果を知ってもらうため、より具体的な例を出しつつリンゲルマン効果について見ていきましょう。
リンゲルマン効果の具体例【仕事編】
まずは仕事の中で見られるリンゲルマン効果についてみてみましょう。2008年、厚生労働省の職場ではPCによる業務と関係のないページの閲覧がおよそ12万件ほど確認されました。この事態を重くみた厚生労働省は、関係のないページの閲覧ができないようアクセスに制限を設けています。 他にもアメリカの場合だと、労働者は平均1時間40分、仕事とは直接関係のないメールやネットサーフィンを行なっているのだそうです。まさにリンゲルマン効果の現れであり、集団になると人間は怠けることを表していますね。
リンゲルマン効果の具体例【学校編】
学校も集団で1つのことに取り組む機会が多い場所ですよね。いままでの学校生活を思い出してみてください。授業中に居眠りをする学生がいるのは日常茶飯事ですよね。そうでなくてもボーっと話を聞いていたり、あるいは聞いていなかったりして怠ける学生も多くいたのではないでしょうか? 掃除の時間も多くの学生がサボっていましたよね。掃除をせずにホウキで野球をはじたり、机は運ばず、ひたすら黒板けしをパンパンしていた人もいます。このように思い返してみると集団で怠ける人は多いのだなと再確認していただけると思います。
リンゲルマン効果の具体例【日常編】
では日常の中でどのような場所にリンゲルマン効果が現れるのでしょうか?例えば祭事に行なう、お神輿などはどうでしょう。 みこしを担いだ経験がある人は分かりますが、非常に重たいです。しかし、多くの人数で1つのみこしを抱えているので1人くらい怠けることがあっても問題ありません。これもリンゲルマン効果の1例ですね。
リンゲルマン効果に関する実験
リンゲルマン効果については、様々な角度から実験がおこなわれております。以下ではリンゲルマン効果を確認することのできた実験を3つ紹介させていただきますね。
リンゲルマンの実験
1913年、農学者のリンゲルマンは集団になった時の個人の貢献度を検証しました。 検証方法は、綱引きを用いて徐々に人を増やしていくというものです。 1人で綱引きを行なったときの貢献度を100%としたとき、以下のように変化していきます。 1人→100% 2人→93% 5人→70% 8人→50% このように、人数か増えれば増えるほど一人当たりの貢献度は落ちていきました。リンゲルマンが行なった実験結果から「集団になればなるほど個人のパフォーマンスは落ちていく」というリンゲルマン効果が世間に知られるようになったんです。
ラタネとハーディの実験
リンゲルマンの実験は1913年に行なわれた実験です。データの測定が正しく行なわれたのか、いささか疑問が残りました。そこでラタネとハーディはリンゲルマン効果が本当に正しいのか改めて実験を行ないます。実験の内容は以下のとおりです。 1.まず2人1組のペアをつくり、2人に目隠しとヘッドフォンをつけさせます。音は聞こえず、何も見えないという状態です。 2.その状態で、まずは1人づつ全力で大声を出してもらいます。 3.次に、2人を隣接させて座らせ同じように全力で大声を出してもらいます。以上です 実験の結果、2人を隣接させて座らせた場合は声の大きさがどちらとも数%低下することが確認できました。どちらも全力で声を出していたにも関らずです。この結果から言えることは、人間は集団になると本人の意思に関らずパフォーマンスが低下するということです。
NHKで行なわれた実験
2015年にNHKが放送した「大心理学実験」という番組内でもリンゲルマン効果についての検証が行なわれています。 実験内容はボディビルダーにトラックを引っ張らせるというものです。リンゲルマンの実験と同様、人数を徐々に増やしていくことで1人あたりの貢献度を測定します。 1人ずつ引っ張ると、平均で106キロまで引っ張ることができました。しかし、3人になると100キロ、5人になると97キロと1人あたりのパフォーマンスが落ちていくのが確認できます。
リンゲルマン効果の原因は?
リンゲルマン効果の原因は、誰かがやるだろうと人任せになってしまったり、自分が行なっている仕事が集団の中で適切に評価されていないと感じると発生しやすいようです。 また、リンゲルマン効果と似たような心理状態の中に傍観者効果があります。傍観者効果の内容を抑えておくとさらに集団が個人に与えてしまう悪い影響を紐解くことができるんです。以下で詳しく解説しますね。
傍観者効果とは?
傍観の意味は、そばにいるのにただ眺めていること。自分は目の前におきている事柄の当時者ではないですよといった態度をとることを言います。街中で困っている人がいても、周りに人が多ければ自分は関係ないとしらんぷりをしてしまう人は多いですよね。 つまり、傍観者効果とは、自分の周囲に多くの人がいることによって率先した行動が起こせなくなってしまう効果のことです。 ではなぜ、周囲に人がいると人間は率先した行動が取れなくなってしまうのでしょうか?
傍観者効果の原因
傍観者効果が発生してまう原因は3つあります。「多元的無知」「責任分散」「評価懸念」です。 1つめの多元的無知とは、周りが行動をおこしていないから、積極的ではないから大丈夫だと考えてしまうことです。周りの状況をみて、自分が行動を起こすべきか否か判断してしまうことから傍観者効果が発生してしまうようです。 2つ目の責任分散とは、自分がやらなくても他の人がやるだろうと考えたり、まわりと同じ行動をしていれば責任が分散するだろうと考えることをいいます。 3つ目の評価懸念とは、もし自分が行動をおこしてしまって失敗したらどうしようなどと周りの評価を気にしてしまう考えのことです。 簡単にまとめると、「皆行動をおこしていないし、人数も多いから自分のせいではないし、行動を起こして失敗する方が嫌だ」という心理がはたらくのです。
リンゲルマン効果・傍観者効果から見る集団の問題点
リンゲルマン効果・傍観者効果で説明してきた内容から分かるとおり、集団になると人はどうしても怠けることが多くなり、個人のパフォーマンスが落ちてしまいます。 リンゲルマン効果や傍観者効果を軽視している組織では、生産性が落ち、プロジェクトの進行を鈍化させる原因となるでしょう。大きな成果を出すために集団で仕事を行なうのに、これでは集団で仕事を行なうメリットが半減してしまいます。 当たり前ですが、集団とはたくさんの個人が集まってできているものです。もし個人のパフォーマンスが平均して60%程度しか出せていない集団であれば集団でのプロジェクトの達成度も60%以下になってしまいます。 では、リンゲルマン効果をどのように対処すればよいのでしょうか?以下で具体的な対処方法を紹介していきますね。
リンゲルマン効果の対策方法
集団になることによってリンゲルマン効果が発生し、様々な弊害が発生することは分かっていただけたのではないでしょうか? では、リンゲルマン効果を抑えるにはどのようにすればよいのでしょうか?以下では具体的な対策方法を5つ紹介します。紹介する対策を実践してもらえば集団における個人のパフォーマンスが向上するはずです。
対策方法1:役割を振る
まず一つ目の対策として、1人1人に役割を与えるというのはいかがでしょうか?役割を与えることで、個人の貢献度をより確認しやすくするのです。 役割を適切に与えれば、与えられた役割に責任を持たなければならないので「誰かがやってくれるだろう」と考えなくなります。結果、個人のパフォーマンスが増加するというわけですね。
対策方法2:チームを分ける
2つ目の対策として、1つの集団を少人数のチームに分けるのも1つの手です。 リンゲルマン効果は、人数が増えれば増えるほど効力を強めてしまいます。そこで、少人数のチームに分けることでリンゲルマン効果の効力を弱めようという算段です。 チームの中でさらに1人ずつ役割を与えれば、リンゲルマン効果により対処できるようになります。
対策方法3:適切に評価する
対策の3つ目は、個人を適切に評価するという手段です。リンゲルマン効果が発生してしまう原因の一つに「個人の貢献度が見えづらい」という理由があります。自分の仕事の貢献度が見えづらいと人は怠けるものです。 職場であれば上司が部下の働きを適切に評価し、それを社員全員で共有できるような仕組みを整えてみてはいかがでしょうか?そうすれば、個人の働きが埋もれることはなく、リンゲルマン効果の発生を食い止めることが可能です。
対策方法4:視線が届くように工夫する
4つ目の対策は常に視線が届くように工夫するということです。上司が部下の仕事ぶりを観察できるような環境を整えることでリンゲルマン効果を抑えることができます。 リンゲルマン効果によって人が怠けるのは、誰かに見られているという感覚がないというのも原因の1つに含まれます。 そこで、常に視線を感じるような環境を整えることでさぼろうという気が起きなくなり、結果リンゲルマン効果を抑えることが可能なんです。
リンゲルマン効果とシナジー効果
これまで、リンゲルマン効果について詳しく説明してきました。リンゲルマン効果に相反する「シナジー効果」というものが発見されているのをご存知でしょうか? リンゲルマン効果と同様にシナジー効果も集団で入るときに発生するものです。一体どのような効果なのでしょうか?以下で説明します。
シナジー効果とは?
シナジー効果とは、集団で1つの仕事に取り組んだ方がより高い成果をあげることができるという効果のことです。個人と個人のパフォーマンスが1+1=2ではなく、1+1=3にも4にもなります。相乗効果とも呼ばれています。
リンゲルマン効果とシナジー効果は矛盾する?
これまで散々「集団だと人は怠けるんだ」と述べてきたので、シナジー効果とリンゲルマン効果は矛盾するのではないか?と考えるかたもいるのではないでしょうか? 確かに、どちらも集団のなかで見られる効果ですね。しかし、それを矛盾と考えるのは早計です。2つは矛盾せず同時に存在しており、どちらか一方が優勢であるときに強く効果が現れるというだけの話です。どちらにも転ぶ可能性があります。 これまで説明してきたとおり、リンゲルマン効果は対策を立てることで効果を抑えられます。うまくリンゲルマン効果を抑えることができれば、集団のメリットであるシナジー効果の恩恵にあずかることができるんですね。
重要なのは環境を整えること
リンゲルマン効果を抑えて、シナジー効果を発揮させるにはうまくシナジー効果が優位になるような環境を整えることが大切です。それは、リンゲルマン効果を抑える環境であるともいえますね。 リンゲルマン効果を抑えるためにも、個々に役割を与えて仕事に責任を与えたり、適切に評価するような習慣や仕組みを作ったりという工夫が必要になります。
まとめ
日々私達は集団で活動をおこなっています。仕事もそうですし、学校やスポーツ、家族での取り組みも集団です。 集団での活動において大きな成果を望むのであればリンゲルマン効果を深く理解しておく必要があります。それは集団のリーダーだけではなく集団全体でです。 リンゲルマン効果についてうまく共有ができていれば集団全体でリンゲルマン効果に対策を立てることができるでしょう。是非小さなことから工夫を始めてみてはいかがでしょうか?