あなたは気持ちとは反対のことをしてしまって悩んでいませんか?こうした行動を心理学用語で反動形成といいます。反動形成とは欲求を満たすことが許されない時に、それと正反対の行動となって表れる心の働きのことです。反動形成の具体例と原因・克服法をご紹介します。
反動形成という心の働きを知っていますか?
あなたは好きな子をわざといじめてしまったり、心とは裏腹の態度や行動をとってしまうことはありませんか?それは反動形成と呼ばれる心理効果です。今回はこの心と裏腹な行動をとってしまう反動形成についてご紹介していきます。
反動形成とは一体どんな心の働きなのでしょうか?
反動形成とは?
反動形成とは心理学者のフロイトが提唱した防衛機制の一つです。防衛機制は自分にとって苦痛な状況に直面したときや、欲求を満たすことが出来ない場合に、自分を守ろうとして無意識に働く心の手段のことです。
防衛機制には様々な働きがありますが、その一つが反動形成です。
反動形成とは、欲求をそのまま満たすことが許されない時に、正反対の行動となって表れる心の働きです。本心とは真逆の行動をとってしまうので、周りの人からは気持ちを理解されません。 では具体的に反動形成とはどのような状況で起きるものなのでしょうか?
反動形成の具体例【恋愛・家族・知人】
反動形成の具体例を恋愛・家族・知人とそれぞれ分けて紹介します。
反動形成の具体例【恋愛編】
好きな人に素直に振舞えず、なかなか距離を縮められなかったり、そっけない態度をとってしまって後悔した経験はありませんか?恋愛における反動形成の具体例をご紹介します。
具体例①好きなことを知られることへの恐怖
自分が相手に好意を抱いていることを知られたら嫌がられるのではないか、という恐怖心が強い場合反動形成が起こる場合があります。好きな相手を無視したり、全く関係ない人に愛想よく接し、勘違いさせるような行動をとったり、心と裏腹な行動をしてしまいます。
具体例②好きな子をいじめてしまう
好きな人をいじめてしまうのも反動形成の一つです。本心では相手と仲良くしたいと思っていますが、素直になれず相手をいじめることで相手との関わりを持とうとします。
具体例③相手を好きになりすぎる
相手を好きになりすぎて、重いと思われ嫌われてしまうのではないか、捨てらせてしまうのではないかといった思いが反動形成を起こすこともあります。そっけない態度をとってしまったり、ときには浮気をしてしまうこともあります。
具体例④好きになってはいけない人を好きになる
相手の人に家庭があったり、何らかの事情によってその人を好きになってはいけないときに反動形成が働くことがあります。わざとその人を避けたり、悪口を言ったり、自分はその人のことが嫌いであるような心と裏腹な言動をしてしまいます。
反動形成の具体例【家族編】
家族間でも反動形成は起こります。どういったものがあるのでしょうか。ご紹介します。
具体例①兄弟間での嫉妬
先に生まれた兄が自分より後に生まれた赤ちゃんに嫉妬しつつも、赤ちゃんを可愛がり、率先して面倒をみるというのも反動形成です。
また、兄弟間で比較されながら育ち、自分は兄(弟)よりも劣っているんだと劣等感を抱いていると、その反動として兄(弟)に傲慢で強気な態度をみせます。
具体例②親への憎しみ
親から虐待を受け、自分をひどい目に合わせたことで憎しみを抱いていても、その親に同情や愛情をみせたりします。これも反動形成の一種です。
具体例③食事への欲
両親からネグレクト(育児放棄)されていたりして、十分な食事を与えられないと、食事への欲が深くなります。しかし実際食卓を囲むと、卑しいと思われたくない、欲張りだと感じられるのではないか、などの思いから素直に行動せず、少食であまり食べません。 こうしたことも反動形成の働きによるものです。
具体例④子供を溺愛する
子供を溺愛することも反動形成による働きの場合があります。 何らかの事情で自分の子供を可愛く思えなかったり、再婚相手に連れ子がいて仕方なく親になる人もいるでしょう。本当は育てたくないと思っていても、それを知られては周囲から避難されてしまいます。 本音とあるべき姿とのギャップにより反動形成が働き、子供を溺愛し、必要以上に甘やかしてしまいます。
反動形成の具体例【知人編】
反動形成が起きるのは恋愛や家族間だけではありません。職場や友人でも起こることがあります。
具体例①人が嫌がる仕事を喜んでする
人が嫌がる仕事を喜んでする人っていますよね。本人も内心、その仕事をしたくないと思っているのですが、仕事ができるように見られたいとか、失望されたくないなどの理由で、喜んで仕事をこなすというのも反動形成の一種です。
具体例②嫌いな上司に懐く
よく懐いてくれている部下はもしかしたら反動形成の働きによるものかもしれません。 本当は苦手で嫌いなのに、職場での空気を気にしたり、円滑に仕事を進めなければいけないという強い思いによって、上司へ必要以上にお世辞をいったり、媚びを売るような行動をとり、あえて距離感を縮めようとする場合があります。
具体例③同僚への劣等感
劣等感が強い場合、横柄な態度や強気な物言いをしてしまうことも反動形式の一種です。 自分よりも早く出世した同期や、仕事ができると評価されている同僚に対し、「自分はダメだ」「自分なんてどうせ仕事ができない」と劣等感を強く抱いていると、反対にその相手に対して強い口調で接したり、傲慢な態度をとることがあります。
具体例であげたような反動形成が働く場面は、友人・知人関係にも置き換えることもできます。本当は嫌いなのに一緒に遊んだり、成績がいい友達に対して劣等感を抱き、その反動でその友人に対して傲慢に接してしまったりと様々な場面で起こりえます。
反動形成の具体例【番外編】
具体例①汚れるのを極端に嫌がる
極度に汚れることを嫌がり、常に除菌シートやスプレーを持ち歩く人っていますよね。潔癖症のように見えるこうした行動も反動形成の心理作用によるものである可能性があります。
本心では部屋をぐちゃぐちゃにしたいし、自分自身も泥にまみれたり、汚れることをしたいと思っています。 しかし「部屋は綺麗にしなくてはいけない」「だらしないと思われるのが嫌だ」「汚いことで軽蔑されるのではないか」といった思い通りにすることで生じる不利益を前に、反動形成が汚れを極端に嫌う潔癖症のような行動として現れます。
具体例②異性への憧れ
異性への憧れが反動形成を起こす場合もあります。例えば、男性が女性のするお化粧や服装に強い関心・興味を抱いていても、周りの目を気にして男らしさを強調するような行動をとることがあります。 これは反動形成の働きによって無意識に異性への憧れが抑圧され、反対に自分の性を強く出すような行動を起こさせるのです。
こうした正反対な行動はなぜ起こるのでしょうか?反動形成が起こる原因をご紹介します。
反動形成が起こる原因とは?
天邪鬼ともとれる、気持ちとは裏腹な行動を引き起こす反動形成は、何が原因で起きてしまうのでしょうか?反動形成を引き起こす原因を4つご紹介します。
原因①恐怖心
反動形成が起こる原因の一つは、自分の欲求や気持ちを素直に出すことで、周りの人から避難されたり、嫌われるのではないかという強い恐怖心です。嫌われることを恐れて、過度に距離を置いたり、反対にあえて先に自分から嫌われるような行動してしまうこともあります。
原因②理想と現実とのジレンマ
理想と現実とのジレンマによって反動形成を起こすことがあります。 例えば友人の結婚が決まったとします。自分はまだ未婚で、パートナーとの関係もぎくしゃくしている状況です。友人に対して本心では「結婚できることが羨ましい」「自分ばかり不幸だ」「みんなに祝福される友人が憎い」などの感情を持っていたとします。 しかしこの気持ちをオープンにするわけにはいきませんね。友人を失うことになるかもしれないし、周りの人の自分への評価も下がります。
そこで反動形成の働きによって現実の自分の感情は抑圧されていきます。代わりに過剰なまでに友人の結婚を祝福する行動が出現してきます。理想と現実のジレンマは反動形成を引き起こす原因になるのです
原因③怒り
怒りの感情によっても反動形成が引き起こされます。怒りをもつ状況は様々ありますが、価値観の相違によって怒りを抱く場合もあります。
「この案件はA案よりもB案の方がうまくいく」「子供の教育のために自然になるべく触れさせたい」など自分なりの考えや価値観があります。 しかし一人で決めることができない状況で、チームやパートナーとの価値観の違いに直面することがあります。そうなるとどちらかが妥協をしなくてはいけなくなりますね。納得していないのに相手の価値観を通されると、その相手に対して強い怒りの感情が沸いてきます。 その感情により反動形成が働き、誰よりも率先して仕事をしたり、自然と親しませたいと思っていたのに英才教育に熱心になったりと正反対の行動をとります。
原因④憎しみや嫌悪
相手への憎しみや嫌悪も反動形成を働かせる原因になります。ドラマでありがちな展開を例にすると、夫は妻に対していつも優しく気遣いもし、家事も率先してやってくれます。妻から見ても、周りの人からみても完璧な夫です。 そんな夫がある日こつぜんと姿を消してしまいます。夫の日記には妻への敵意の言葉が綴られていました。夫は前々から妻に対して嫌悪感と強い憎しみの感情を抱いていたのです。その感情を反動形成が抑圧し、良き夫として行動させていたのです。
本心に蓋をし、真逆の行動を取ることは心にとって負担なことです。この夫のようにある日突然爆発する前に、どうにかしたいものですね。ではどうしたら反動形成を克服できるのしょうか。
反動形成を克服する方法6個
反動形成は自分自身を守る心理作用です。しかし本当の気持ちを抑制しているということは心に負担をかけている状態です。そのまま放置しているといつか心や体にひずみが出てしまいます。 そうなってしまう前に、少しでも自分の本心に素直に生きたいですね。反動形成を克服する方法を6つご紹介します。
克服法①自分の気持ちに気づく
反動形成を克服するために自分の本当の気持ち、それを否定する気持ちや思い込みに気づくことが大切です。 「なぜ自分は同僚に対して横柄な態度で接してしまうのか」それを深く考えていくと、「自分より先に大きな仕事を任されて羨ましい」「自分は期待されてないのでないか」「仕事ができないと思われたくない」「自分は同僚よりも仕事ができる」といった自身の劣等感や欲求に気づくはずです。 困難な場面に直面した際、反動形成によって自分自身の本心を無意識のうちにしまい込んで正反対の行動にうつしてしまいます。まずはそのしまい込まれた自分の気持ちや欲求に気づくことからはじめましょう。
克服法②自分を認めてあげる
自分の本心や欲求に気づいたら、次はそれを丸ごと認めてあげましょう。「自分は同僚を羨ましく思っている」「同僚に対して劣等感をもっている」「周りから仕事ができないと思われたくない」「自分だってできる人間だ」と気持ちをすべて受け入れてあげましょう。 反動形成が働くような苦痛な場面や心理状況は、自分自身が欲求を認めることで軽減することができます。
克服法③自信を持つ
自信の無さが原因で直面した状況が困難であると思い込んでしまうことがあります。「自分の意見なんてどうせ通らないだろ」「自分の事なんてみんなが嫌がるに決まってる」など実際にそうなった時に、自分が傷つかないようにするために素直になれません。 欲求や気持ちを含めて「自分はこういう人間なんだからこれでいいんだ」と自信を持ちましょう。
克服法④今後のことを決める
克服法①、②で本心や欲求に気づき、それを認めてあげました。そのうえで今後どう振舞うのかを考えてみましょう。「同僚に対して劣等感を持っている」ことを筒抜けにするのもなんだか恥ずかしいし、かといって横柄な態度で接することも違いますよね。 「ある程度の距離感で接していこう」など自分なりの落としどころを決めることが大切です。本心を認めたうえで、無理のない範囲で今後のことを決めて実践していきましょう。
克服法⑤ポジティブにとらえる
自分自身で置かれている状況が困難であると思い込んでしまうことがあります。 「同僚は大きな仕事を任された」「同僚は自分よりも仕事ができるのかもしれない」と劣等感を抱き、反動形成を発動させる前に、「次の大きな仕事は自分が任されるかもしれない」といったように、ポジティブな考え方をするように意識していきましょう。 前向きに考えることを習慣にして、反動形成を起こすような困難な状況を自ら作り出すことをやめましょう。
克服法⑥笑顔でいることを意識する
笑顔にはストレスを解消して、ポジティブ思考になる効果があります。反動形成を克服するうえでポジティブに考えるようにすることはとても大切です。 笑顔でいることが気分的に難しいときも、作り笑いでいいので笑顔でいることを心がけましょう。脳が「自分は今幸せなんだ」と勘違いし、次第に気持ちがポジティブになっていきます。 また、笑顔で接することで、周囲は敵意ではなく好意を持って接してくれるようになります。自分の笑顔につられて、周りの人も笑顔になりますので相手の反応への恐怖心が和らいでいくでしょう。
笑顔でいることで得られるこうした効果は、反動形成を克服するために必要な要素になります。
笑顔の17つの効果を徹底解説!笑顔が恋愛や仕事にもたらす影響は?
もしも身近な人が反動形成を起こしていたら
身内や同僚が反動形成を起こしているとわかったらどのように対応していけばいいのでしょうか?反動形成を過剰に働かせないための対処法をご紹介します。
対処法①過剰に反応しない
反動形成を起こしている人が身近にいる場合、その行動に対して過剰に反応しないようにしましょう。相手の態度につられて、自分までカッとなってしまうとさらに状況が悪化してしまいます。 酷い言葉を浴びせられたりすることもあると思いますが、感情的にならず落ち着いた態度で接することが大切です。
対処法②自分から素直なところを見せる
反動形成を起こしている人は、自分の本心を抑圧している状態です。そうした気持ちを素直に表に出すことに恐怖心を抱いてますので、まずはこちらから今の気持ちを素直に伝えましょう。 自分から気持ちを表すことで、相手も「この人には素直に気持ちを伝えられるかも」と本音をこぼしてくれるかもしれません
適度な距離を置きつつ、相手が少しづつ自分自身の気持ちを認め、素直になれるように受け止めてあげましょう。焦りは禁物です。
反動形成に関連する心理学用語
反動形成という心の働きに関連する心理学用語をご紹介します。
防御機制
防衛機制とは心理学者フロイトが提唱した心理用語です。受け入れがたい状況や危険な場面に直面した際に、その不安感を軽減しようと無意識で働く心理作用です。 防衛機制には今回ご紹介した反動形成・抑圧・否認・退行・隔離・逆転などがあり、それぞれ自身の心を守る手段として無意識に出現するといわれています。
自分にとっての耐え難い苦痛を事実として認めたくないという気持ちや、やりたいのに社会的に許されないなど、ありのままを受け入れることができない場面で防衛機制は働きます。 防衛機制は自分を守るための心の働きなので、心の健康を維持し、社会に適応するためには必要な機能とも言えます。
逆転
反動形成とよく似た心理作用に、防衛機制の一つである「逆転」があげられます。逆転とは、満たされない欲求や感情を正反対の形に変化させることです。真逆の形でその欲求や感情を受け入れようとする心の働きです。 例えば、愛する人に恋人がおり、自分の愛情が受け入れてもらえないことが分かると、その相手に対して強い憎しみの感情をぶつけます。こうした正反対の行動により、もともと持っていた欲求を満たそうとします。
回避・逃避
防衛機制の抑圧・否認・隔離を総称して「回避・逃避」と表現することがあります。明日大事な試験があり、勉強しなくてはいけないのに、部屋の掃除をしたり、遊びに出かけてしまったりしたことはありませんか?これは回避・逃避行動の一つです。 向き合うことが難しい現実や、面倒に感じる状況から目をそらし、本来あるべき姿の真逆の行動に出てしまいます。 こうした心の働きも、反動形成同様に自分の心を守るために無意識で出現しているのです。
自分に素直な人生を
日常生活では大なり小なり常に自分の欲求と現実(マナーやその場の空気、社会的理想など)の間で折り合いをつけています。こうした葛藤の中でバランスをとって生活していくことはストレスであり、苦しいことが多々ありますよね。 反動形成をはじめ、防衛機制は私たちが日常で抱く、こうした葛藤を落ち着かせる、いわば心の安定剤です。とはいえ、この安定剤は根本的な欲求を解消するものではありません。頻繁に本心と矛盾する行動を取っていると体調を崩す原因となってしまいます。
自分の本当の気持ちを認め、どうして欲求をそのまま行動に移せないのか、一つずつ整理していきましょう。欲求すべてを思うまま発散することはできませんが、自分自身で欲求を認めてあげることでストレスが軽減されます。
自分の気持ちや欲求を素直に受け入れ、「自分はこういう人間なんだ、それでいいんだ」とポジティブに自分の存在を認めてあげましょう。裏腹な行動を取らず、少しでも自分の心に素直な日々を笑顔で過ごしていきたいものですね。